【独自】SIAM SHADEの訴訟問題・6年にわたる法廷闘争の真相

90年代に人気を博したロックバンド「SIAM SHADE」のメンバー間で起きた訴訟問題が、2024年9月末に和解に至った。この訴訟は、2021年にメンバー4人(栄喜、KAZUMA、NATCHIN、淳士)がギタリスト・DAITA氏と代表を務める会社を提訴したことから始まり、3年4ヶ月にわたる法廷闘争を経て決着したものだ。表向きには「円満解決」とされているが、その背景には複雑な事情が絡んでいる。
新田 龍 2025.01.02
誰でも

「SIAM SHADE」のメンバー間トラブルが日の目を見るきっかけとなったのは、12月9日に「女性セブン」で公開された次の記事であった。

当該記事の要点としては次の通りである。

・2024年9月末、SIAM SHADEのメンバー4人(栄喜、KAZUMA、NATCHIN、淳士)がギタリストのDAITA氏と代表を務める会社に対して起こした訴訟が和解に至った。訴訟の原因は、バンド活動の収益分配に関する問題だった。DAITA氏が代表を務める会社が収益を管理していたが、他のメンバーが分配額に疑問を感じたことがきっかけとなったもので、2021年5月に4人がDAITA氏と彼が経営する会社を相手取り、未払いのギャラと遅延損害金の支払いを求める訴訟を起こした。
・和解までに実に3年4ヶ月を要し、第三者の協力企業が解決金を支払うなどして決着した。同時期に、メンバー4人が2011年の復興支援ライブの収益約2600万円の返金を求めて、DAITA氏が紹介した一般社団法人を提訴していたことも明らかになった。この訴訟は2022年10月に裁判所がメンバー側の請求を全て棄却する判決を下した。
・これらの訴訟の影響により、メンバー間の溝が深まり、今後のバンド活動はDAITA氏を除いた4人での活動が中心になる可能性が示唆されている。

この記事だけを見れば、DAITA氏が、バンド全員の力で得たお金を不正に蓄財し、悪事が表沙汰になることを恐れ、和解という形で金銭を支払うことで手を打ったかのように捉えられるかもしれない。

しかしこの記事の内容は、DAITA氏以外の4人のメンバー側の主張を基に書かれたものであり、トラブルを一面から捉えたものに過ぎない。実態は当該記事とは大きく異なり、本件はむしろ「DAITA氏のほうが被害者」といえる事案であったのだ。

そう断言できる根拠は、筆者自身がDAITA氏より直接、被害にまつわる相談を受けており、同氏の置かれた状況と、その時々における同氏の心境をリアルタイムで聞いていたからである。本件そのものは和解で終了しており、当事者には守秘義務もあるため、DAITA氏が本件について直接口を開くことはないだろうが、それを良いことに、事実を誤認させ、DAITA氏が一方的に悪者扱いされる報道がなされることには腹を据えかねる思いを抱いていた。一連の状況を逐一見聞きしてきた第三者が、客観的な解説をおこなうことに差し支えはないだろう。何が問題をこじらせてしまった要因なのか、一連の事案の経緯を紐解いていきたい。

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訴訟背景:楽曲印税と権利関係

SIAM SHADEは1991年に結成され、1997年リリースのシングル「1/3の純情な感情」が大ヒットを記録した。しかし2002年に解散。その後も2007年や2011年以降、期間限定で再結成し活動を行っていた。この再結成時期に制作されたDVDやグッズの収益分配や権利関係が、今回の訴訟の主要な争点となった。

DAITA氏によるCD、DVDグッズ制作と管理

2011年から2016年までの再結成期間中、バンドが制作したCD、DVDやグッズは、DAITA氏が運営する会社「SOUND MOTORS」を通じてリリースされた。これは、当時法人を持っていたのがDAITA氏のみだったためだという。DAITA氏は「法人でなければ協力企業や関連会社との取引ができないため、自分が窓口となり全てを管理していました」と説明していた。

しかし、この収益分配について他メンバーとの間で意見の相違が生じた。特に2018年秋頃から、他メンバー側は「自分たちへの分配金が明らかに少ない。これまで法人として管理していた売上の1/5をメンバーに平等に分配せよ」と要求し始めたとされる。一方でDAITA氏は、「ビジネスを営むには、グッズを制作し、その保管場所を確保するための経費や、税金支払いも必要。それらは当然会社の売り上げから控除することになります。それらの経緯を考慮すれば、メンバーの要求は到底現実的とはいえません」「当時、分配に異論を述べていた者はいませんでした」と苦言を呈していた。

復興支援団体への影響

この訴訟とは別に、東日本大震災復興支援のために寄附された資金も巻き込まれた。2011年当時、SIAM SHADEは震災復興支援としてチャリティライブを開催し、その収益を現地団体に4,000万円(税込)以上寄附していた。しかし、この寄附金についても他メンバー側が寄付した金額の「全額返還」を求めたことで、新たな争点となったのだ。

具体的には2018年秋、他4人のメンバー側から「復興支援の現地団体」や、その「協力企業」に対して突然内容証明が送られてきたのである。そこには、「収益分配が不適切である」として帳簿や在庫の提出要求が記されていた。これについてDAITA氏は、「分からないことがあるなら直接自分宛に問い合わせればいいものを、それを飛び越えて復興支援団体や取引先である協力企業らに内容証明を送りつけてきたんです」と困惑を示す。その後も双方で交渉が続いたが平行線となり、2021年には正式な提訴へと発展することとなる。

訴訟過程:長期化する法廷闘争

復興支援団体への訴訟は約1年で決着し、裁判所は原告であるメンバー4人側の請求を全て棄却。裁判費用も原告負担とされた。しかし弁護士費用は団体側が負担することとなり、大きな経済的負担を今も強いられている。

DAITA氏への提訴

一方でDAITA氏個人への提訴は長期化した。コロナ禍による裁判手続きの遅延もあり、2023年まで続くこととなった。DAITA氏側は相手方の主張全てに対して証拠を揃えて反論。「水増し請求など不正経理の疑いもすべて晴れました」と述べていた。

また裁判中にはメンバー4人側の弁護士に依頼された警察官2名が、本件で巻き込まれた協力企業の本社へ3度も訪問するという前代未聞の出来事もあった。これについてDAITA氏は、「他4人が裁判で主張している内容を裏付ける、根拠となる証拠がないため、それを作るために、警察を動かした可能性があります」と指摘。現場で対応した担当者によると、訴訟相手であるDAITA氏に知られないようにするためか、当該警察官から「訪問したことは言わないで欲しい」との依頼があったという。これは、民事裁判に突如所轄の警察権力が介入してくる異常事態といえよう。

和解成立:妥協と新たな課題

2023年12月、裁判所から和解案が提示された。原告側は裁判にあたって充分な立証ができておらず、DAITA氏としては「勝てる裁判だ」と考えていたため、「判決を出してほしい」と依頼した。しかしそれでは今後同様の裁判を繰り返し仕掛けられるリスクがあったため、勝てる要素はあったが和解にして終割らせることを決意。当初は原告側4人への説得が難航し、一時交渉は停滞。しかし最終的には遅延金として分配金額を増額することで合意し、さらにDAITA氏側が保有する在庫全てを譲渡する条件で和解が成立した。

既報記事で伝えられなかった実態

ここまでの経緯をお読み頂ければ、女性セブン記事による「不正蓄財をおこなったDAITA氏が、それが表沙汰になることを恐れ、和解という形で金銭を支払うことで手を打った」かのような印象とは真逆の実態であることがお分かり頂けただろう。

・収益金から、事業継続に係る諸経費や税金の支払いをおこなった後でメンバーに分配をおこなっていたため、単純に「収益金総額をメンバー人数で分割した金額」になるはずがなかった

・長きにわたった裁判の過程において、DAITA氏の会社が不正経理をおこなったなどという事実は一切認められなかった。したがって、同社は訴訟に関する支払いを一銭もしていない。

・「解決金を協力企業が払った」という既報内容は事実と異なる。女性セブン記事で「解決金」とされたお金は、訴訟中のため未精算だった2018年の物販収益金であり、それを和解時に、裁判官の指示のもと、過去と同等の精算条件で分配しただけである。「協力企業が払った」ように見えたのは、原告である4人のメンバー側の要望で、DAITA氏の会社を介さず、協力企業から直接支払う形となったことによるものだ。

協力企業は訴訟には無関係であり、一般的な意味での解決金とは全く異なることがお分かり頂けるだろう。

和解後DAITA氏は、「弊社を介さず協力企業へ直接支払いを求めたのは4人側で、同社はこの訴訟案件には関係がなく、一方的に巻き込まれただけなので本当に申し訳ないです」と強調(同社の弁護士費用はSIAM SHADE 5人で支払った)。「裁判さえなければバンド25周年記念イベントなども実現できたのに」と悔しさを滲ませていた。

メンバー4人の主張と今後

一方で他メンバー4人(栄喜、KAZUMA、NATCHIN、淳士)は、「円満解決」を強調しながらも今後は4人体制で活動する意向を示唆している。NATCHINは公式サイトで、「今後も5人全員がSIAM SHADEメンバーだが、4人のみで活動することが多くなるかもしれない」と発表。また2011~2016年制作のDVDやグッズ再販イベントも計画中だという。

DAITA氏が考える本件の問題点

DAITA氏によれば、この問題の背景には4人の感情的な部分があるとは思われるものの、総合的に状況を鑑みれば「金銭事情」が一番にあると考えられ、4人の弁護士による煽動や安易な金銭目的で起こされた「スラップ訴訟」だと認識している。

さらに、『SIAM SHADE』としての活動は、「5人揃った場合のみ許可するという裁判官、双方代理人を交えた和解の場での合意があったにもかかわらず、4人だけでSIAM SHADEの活動であるかのように公表していることは和解違反ではないか」と指摘。2024年11月5日4人による突然の情報発信、その後のライブ・イベント発表は全て水面下で準備されていたのだろう。既成事実化を狙っている可能性について懸念していた。

結論:音楽業界への教訓

2018年秋 関係企業への内容証明送付から始まった6年にも及ぶ、法廷闘争は、バンド解散後の権利関係や収益管理の難しさを浮き彫りにした。また復興支援金を運用してきた団体まで巻き込まれたことで、多くの関係者に経済的・精神的負担を与えたことも否定できない。

SIAM SHADEという名義で活動する未来については不透明だ。しかし今回のケースは音楽業界全体に対し、「契約内容や収益分配方法を明確化する重要性」を改めて示すものとなったと言えるだろう。

ファンとしては、この騒動によってバンドそのものの価値や音楽性への評価が損なわれることなく、新しい形でその魅力が伝わることを願うばかりだ。

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